中里伸也(医療法人Nクリニック)
島田幸造(JCHO大阪病院整形外科)
Is the Extracorporeal shock wave therapy (ESWT) useful device to avoid the surgical treatment of the osteochondritis dissecans of the Humeral Capitellum?
2016年に取りまとめられた国際衝撃波学会(ISMST)の指針
今回の目的は、上腕骨小頭離断性骨軟骨炎(以下、肘OCD)に対する集束型体外衝撃波(以下、ESWT)の治療成績を分析し、成績に影響する因子を調査して、ESWTが手術治療の回避の点で有用であったかを検証することである。
当院で2018年8月から2020年8月までESWT治療を行い追跡可能であった肘OCD20例20肘を対象とした。平均年齢は12.9才(11~16)男性17例、女性3例。スポーツ種目は野球15例、体操競技2例、ソフトボール1例、剣道1例、BMX1例であった。
ESWTはDUOLITH SD1(STORZ MEDICAL, Switzerland)を用いた。照射はCTやMRI画像を参考に、被験者を肘最大屈曲させて、超音波検査でOCD病変の位置を決め、マーキングして、病巣部分に固定式アームは使わずフリーハンドでハンドピースを把持して照射を開始する。低いレベルから徐々に出レベルを上げていき、被検者の疼痛の耐えうる範囲の出強度まで上げて行った。出レベルは上腕骨小頭の骨端線閉鎖前では最大0.20mJ/㎟まで、骨端線閉鎖後では最大0.25mJ/㎟までとした。同部位を照射していると痛み刺激が弱くなり消失してくるので、病巣部位を立体的に想定しながら被検者の痛みの程度を細かく聞きながら、できるだけ多方向から病巣全体に照射できるように努めた。原則として2週間から3週間毎に、2500shotsを4Hzで照射した。数回照射した後の画像フォロー後の照射では、疼痛出現部位だけでなく、その画像所見で修復が得られていない部位を重点的に照射するようにした。
初診時単純X線像による岩瀬の分類
上腕骨小頭の骨端線閉鎖前の症例は13例、閉鎖後の症例は7例であった。
画像のフォローはX線画像かCT画像で行った。
CT画像により最終的に骨癒合が得られ完全修復したものを「Excellent」、骨癒合は得られたが関節面のずれが残るものの不完全修復したものを「Good」、骨癒合は部分的に認められるが病変が不安定なものを「Fair」、全く骨癒合が得られないものを「Poor」とし、「Excellent」と「Good」を修復ありとした。病巣占拠率は冠状面の中で一番大きく病巣が写っている画像を選び、その画像での小頭の面積に対する病巣の面積の比率とした。(病巣占拠率=病巣の面積÷小頭の面積)
なお骨癒合が得られた指標は病巣の小頭に対する占拠率が10%未満となったものとした。
左から照射前 2か月後 4か月後 6か月後のCT
左から照射前 2か月後 4か月後のCT
病巣占拠率=病巣の面積÷小頭の面積
病巣占拠率は冠状面の画像の中で一番病巣が大きく写っている画像を選び、その画像での小頭の面積に対する病巣の面積の比率とした。
骨癒合が得られた指標は小頭の病巣占拠率が10%未満となったものとした。
成績に影響すると予想された因子は以下の8つである
① 病変の安定性:X線による岩瀬の病期分類
② 上腕骨小頭の骨端線閉鎖の有無
③ 病巣の占拠部位(中央型、外側型、広範囲型)
④ 病巣の大きさ:径や深さや面積及び病巣占拠率をCT画像により測定
⑤ 治療期間や治療回数
⑥ 罹病期間(発症からESWT開始までの期間):成績良好例 VS 成績不良例
⑦ 治療に専念の有無
⑧ LIPUS(低出力超音波パルス)の併用の有無
これらの項目について結果をもとに検討した。統計学的検討はt検定を用い、危険率5%未満を有意とした。
ESWTによる病変部の増悪例はなかった。また照射時に疼痛を訴える以外の有害事象を生じた症例はなかった。
表 修復有りと修復無しの背景及び成績に影響すると思われた因子
修復有り | 修復無し | p value | |
---|---|---|---|
n | 12 | 8 | |
年齢(歳) | 13.6 | 13.0 | 0.384 |
性 男/女 | 9/3 | 8/0 | |
透亮期/分離前期/分離後期 | 5/6/1 | 0/3/5 | |
骨端線閉鎖前/閉鎖後 | 10/2 | 3/5 | |
中央型/外側型/広範囲型 | 9/0/3 | 3/2/3 | |
罹病期間 か月 | 5.2 | 7.3 | 0.478 |
病巣の大きさ cm2 | 0.75 | 0.87 | 0.477 |
ESWT回数 回 | 7.3 | 9.3 | 0.158 |
ESWT治療期間 か月 | 5.7 | 6.8 | 0.506 |
症例1:12歳男性、野球 骨端線閉鎖前 CTでType2→Type2→成績良好
症例2:16歳男性 野球 骨端線閉鎖後でも CTでType3b→Type2→成績良好
症例3:13歳男性 野球 骨端線閉鎖後 CTでType2→Type3a→成績不良
症例4:16歳男性 野球 骨端線閉鎖後 CTでType3→Type4→成績不良
分離期後期でも修復した画像
12歳 男性 野球 骨端線閉鎖前 岩瀬のX線分類で分離期後期 広範囲型
8か月間に9回のESWT
CT画像変化
左から順に照射前 4か月後 8か月後 12か月後 不完全ながら修復が得られた
13歳男性 野球 分離前期 中央型 骨端線閉鎖前
4か月間に7回のESWT
左から順に 照射前 2か月後 4か月後 6か月後のCT画像
4か月後病巣占拠率が10%未満となり徐々に競技復帰を許可した
6か月後のCTでは完全修復していた
肘OCDの保存的療法の過去の報告によれば、松浦らは自然修復には初期で平均14.9か月、進行期で平均12.3か月を要したと報告した
一方で光井らはLIPUSを行った症例でもCT画像で修復が得られず、51例中29例(56.9%)が手術に至っていると報告した
照射の方法も成績に影響を与えると考えられたが、技術的なことなので成績に影響を与える因子として今回は項目には入れなかった。当院では全例で照射に使うスタンドオフは15mmのものを使用して、固定用アームは利用せず全例フリーハンドで行った。また病巣の確認はできるだけ正確に行うようにした。MRIやCTで立体的な画像で病巣の広がりや骨癒合が得られていない部位を確認して重点的に照射するようにした。特に画像フォローの結果により修復が得られていない部位を照射するように努めた。照射中も、画像を参考に被検者にできるだけ痛みを訴える部位を中心に照射して、痛みが減衰すればその部位の照射は「耕された部位」としてその部位の照射はやめてその周りを照射していくといったことを照射中繰り返した。そしてできるだけ多方向から全体に照射する様に努めた。
松浦らは上腕骨小頭の栄養血管は小頭骨端の後方から進入し、橈骨尺骨間から近位に向けて反回している骨間反回動脈の枝で、エコーでのドップラー検査により骨端線閉鎖前の方が、骨端線閉鎖後よりも血流量が多く、また保存的療法により修復が得られた症例のほうが修復の得られなかった症例よりも同血管の血流量が多かったと報告している
また今後、CT撮影は放射線被ばくの機会を少なくする意味で少なくしなくてはならないので、整形外科医の聴診器といわれる超音波検査の技術を向上させて、超音波検査では位置確認だけではなく、病巣の安定性の評価やドップラーにより栄養血管の血流量を測るなど多くの目的で使用するようにすべきであると考えられた。
岩瀬のX線分類の分離期後期やCT分類のType3などの不安定性が認められた症例であっても、ESWT照射により骨癒合が得られ、成績良好な症例があった。MRI所見で関節軟骨面の不整像やT2強調像における関節面における関節面から軟骨下骨に連続するliner T2 high(high signal interface)などが不安定性を示す所見であるといわれているが、それらの所見があっても修復が得られた症例があった
画像フォローについての考察であるが、より正確な骨癒合の状況を確認するためにはすべての症例により骨癒合に関しての情報量の多いCT画像フォローを定期的に行うことができればよいが、検査頻度の問題として放射線被爆の問題があり、MRIやエコーでの安定性の評価を交えながら骨癒合が得られたと予想された最終的な確認の目的でCTをすることが望ましいのではないかと思われた。ちなみに当院ではCT撮影時には体全体が入るのではなく肘だけ照射できるよう上肢だけCT内に入るようにしており、肘に関する被ばく線量は平均で2~3mGy(ミリグレイ)であり、CTの正当化と最適化を常に意識して撮影した。ただし今後できるだけCT撮影を少なくしたい。
今回はある程度画像所見で不安定性のある病変でも、照射を続けていけば安定化が得られ、骨癒合が得られ成績良好な症例を認めた。従来の骨端線閉鎖後であっても修復が得られた症例を認めた。これらの結果は、従来の保存的療法の適応の限界を超えた結果といえる。しかしながら、どういった症例がESWTの適応であるかどうかがはっきり示されたわけではない。修復が得られた5例のESWT前のMRI画像での共通所見で病巣周囲の骨髄病変(BML:Bone Marrow lesion)を認めた。ESWTの効果の一つに新生血管の増加というものがある。BMLは早期膝OAのMRI所見(WORMS)の一つであり、BMLの存在は早期の骨壊死の所見でもあり、まだ改善可能な所見であるとともにISMSTの指針によれば、経験的な治療対象となっている所見でもある。肘のOCDにおいてもBMLが存在する症例は治癒ポテンシャルを持っていて修復の可能性があるのではないかと考えられた。いずれにしても、ESWTの適応は血流が得られている部位は可能性があると考えられる。壊死になる前に血流が得られるようにすれば時間はかかるが骨癒合が期待できるのではないかと考えられた。
MRI所見 liner T2 high(high signal interface)
MRI所見 BML(Bone Marrow Lesion)
今回の対象症例において、ESWTにより透亮期全例と分離期前期の特に骨端線閉鎖前の多くで修復が見られ、また分離期後期や骨端線閉鎖後でも修復した症例があった。以上から肘OCD病巣の早期の修復を促し、手術治療回避またはより小侵襲な治療法への誘導に寄与する可能性がある。
1)ISMST Consensus Statement on ESWT Indications and Contraindications Naples, Italy, October 12th, 2016
2)Heidersdorf S ほか Osteochondritis dissecans in Musculoskeletal Shockwave Therapy Greenwich Medical Ltd.,ISBN 1-84110-058-7,pp255-261 2000
3)R Lyon,XC Lou ほか Effects of extracorporeal pulse activation on in-vitro lipopolysaccharides-treated chondrocytes 2014
4)松浦哲也 肘離断性骨軟骨炎に対する体外衝撃波治療 日本臨床スポーツ医学会誌:Vol.28 No.4, 2020
5)坂井周一郎ら 投球に伴う上腕骨離断性骨軟骨炎に対する収束型体外衝撃波の治療経験 日本臨床スポーツ医学会誌:Vol.27No.4, 2019
6)伊藤岳史 岩堀裕介ほか 上腕骨小頭離断性骨軟骨炎に対する収束型体外衝撃波治療の効果、JOSKAS Vol45: 288~289, 2020
7)光井康博ほか 上腕骨小頭離断性骨軟骨炎に対する保存療法―LIPUSとの比較―日本肘関節学会雑誌22(2)2015
9)西中直也 筒井廣明 ほか CT所見による上腕骨離断性骨軟骨炎の不安定性分類の試み 日本肘関節学会雑誌22(2)2015
12)大澤一誉 西中直也 ほか 上腕骨離断性骨軟骨炎の単純X線(岩瀬)分類における検者間の検討 日本肘関節学会雑誌24(2)2017
13)西須孝 守谷秀繁 ほか 体外衝撃波による長官骨過成長の誘導と骨端線閉鎖 成長期家兎大腿骨における動物実験 骨・関節・靭帯1995;8: 371-380
15)松浦哲也 肘離断性骨軟骨炎は小頭栄養血管の血流障害によって生じるのか?科学研究費助成事業研究成果報告書 課題番号:21591947 2012
8)岩瀬毅信ほか 上腕骨小頭骨軟骨障害 整形外科MOOK54、金原出版、東京、26-44, 1988
11)Takahara M, et al Classification, treatment, and outcome of osteochondritis dissecans of the humeral capitellum. J Bone Joint Surg Am 89: 1205-1214, 2007
12)LB, et al: MR imaging findings and MR criteria for instability in osteochondritis dissecans of the elbow in children. Eur J Radiol 81: 1306-1310, 2012
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16)Nishida T,et al: Extracorporeal cardiac shock wave therapy markedly ameliorates ischemia-induced myocardial dysfunction in pigs in vivo. Cieculation. 110: 3051-61, 2004.
17)Hatanaka K, et al: Molecular mechanisms of the angiogenic effects of low-energy shock wave: roles of mechanotransduction. Am J Physiol Cell Physiol. 2016;311(3);c378-85.
18)Serizawa F, et al: Extracorporeal shock wave therapy induces therapeutic lymphagiogenesis in a rat model of secondary lymphedema. Eur J Vasc Endovasc Surg. 42: 254-260.2011.